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マネジメントシステムへのトップの関与

以前、あるお客様からISO9001(品質マネジメントシステム)の導入について、説明をして欲しいという依頼があった。

中堅の部品メーカーで業績も安定しているが、次のステージを目指すために会社基盤を固めたい。そこで、ISOの導入を検討しているというものだった。

訪問すると、社長の他に社員の方々が5、6名おられ、採用の圧迫面接のような形で、片側の席にこちらは私一名が着いた。

一通り、社長から会社の説明と、ISOを導入したい旨のお話があり、その後でこちらからご説明しようとしたところ、社長は席を立った。

「後は任せる」と、同席していた管理部長に告げて。

どうも雲行きが怪しいと感じた。

案の定、部長はじめ、その場にいた社員の方々のこちらを見る目つきが険しい。

話そうとすると、いきなり遮られ、「ISOを導入すると大変なんでしょう」と言われた。

少し話を聞くと、同業者でISOを取得した後、余計な仕事は増えるわ、残業は増えるわ、でみんな疲弊していると聞いたとのこと。

ISO導入の際に良く見られる『悪い評判やマイナスの噂が先行して、ISOそのものに否定的になっている』状況である。

どうやら社長は、『自分は導入したいが、社員たちは反対で、そこを説得して欲しい』という理由で、こちらを呼んだようだ。そう感じた。

社員の方々は、ご自身で体験したことではなく、あくまでも悪い噂を元にして、マイナスのイメージに捕らわれてしまっているのである。

ここをほぐすのはなかなか困難である。

ISOの導入は、ボトムアップではない。

導入の意思決定は、あくまでもトップであり、社員を説得して(もしくは鶴の一声で)、全社あげてよしやっていこうというのが王道パターンである。

ISOの導入を取引先から迫られているとか、ISOがないと商売ができづらくなっているとか、営業的に導入を検討している会社も多い。その場合は、ボトムアップのケースも出てくる。

だが、この会社はそうではなかった。あくまでも、基盤を整備して、会社経営をしっかりとやっていきたいという社長の思いである。

その思いを、本来は社長が熱く語って社員を説かねばならないのだろうが、そこを第三者であるこちらに任されても、そう簡単に事は運ばない。

結果として、その会社は導入を見送った。

それで良かったのかもしれない。

無理やり導入しても、うまくいくかどうかはなんとも言えない。

こちらでは形を作ることはできるし、ISOの審査を通すことはできるが、仏像に魂を入れるのはその会社の社長であり、社員の方々なのである。

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